周知のことだが、ニコチン依存症は世界に蔓延している。ほとんどの人は、ニコチン中毒が喫煙からくるものであることをよく知っている。そんなこと一行に意に介さず、好きなことを続けている人もいれば、自分は実際のところ麻薬依存症なのだと、あるときたまたま自覚して、どうにかして悪い癖をやめようとする人もいる。とりあえずは、喫煙というライト・ドラッグはヘロイン常習に比べて決して軽い害ではないにせよ、その進捗は緩やかなものであれかしと祈っておこう。
保健省は常にタバコの害について警告を発し、政府は、タバコのコマーシャルは深夜近くの一定時刻にならなければ行ってはならないと言い、官憲は公共の場所での禁煙を守るよう見張っている。しかし、はるかに効果的なのは、喫煙がどのような結果を招くか、人々の目に訴えることだろう。＜写真＞
そこで、心の準備ができた人間は、自分の中の何かが変わる大きな衝撃を感じるにちがいない。脳神経のスイッチが入って、なにか大事な決意ができるようになったはずだ。
インターネットでは、どうすればタバコが止められるか、色々それなりの情報が数多く得られるが、実際にそれを試す人によって効果はそれぞれ異なる。毎朝「もう吸わない、もう吸わない、もう吸わないんだ」と経文を唱えるような方法が効果的な人もいるし、リハビリ禁煙講座のようなものに通わなければならない人もいる。最も大事なのは、心の中の闘争、自分との闘いだ。タバコを吸いつづけておぞましい結果を招きたいのか、それとも、思い切って、耳にたこができるほど聞かされた、あのすばらしい健康生活なるものに飛び込んでみるか、はっきりさせなければならない。
もっと勇気づけられるのは、フォーラムやグループに参加して、そこで互いの経験を分かち合い、もし、そうしたい気持ちが本当にあるのなら、いったい何年吸っていようと吸い始めたばかりでも、自分が本気でこの喫煙という麻薬と手を切るつもりだと話してみることだ。＜写真＞
「止めるのは割と簡単だった。よく分かったのよ、タバコを本当にやめたい、健康も美しさも、何もかも失くしてしまうのは惜しいと思ったの。タバコを吸う口実は喫煙自体の楽しみ以外にたくさんあった。まず、お近づきの印にというのもあるし、気まずさを隠すためもある。付き合いで吸うこともあったし、手持無沙汰だからとか仕事に一区切りつけたから、とかね。まあ、体に悪いこととは手を切ろうと思ったわけ。自分次第よ。ただ、いつもそう思えるとは限らないだけ。」
「33年吸ってたよ。タバコが無い時は自家製のマホルカを吸った。何回か止めようとしたんだが、うまくいかなかった。バカみたいにほっつき歩いて、ポケットの中をさがしまわるんだ。夜中の咳が止まらなくなってね、タバコ飲み特有の咳さ。寝付けないし、ゼーゼー息苦しい。止めると決めて、サウナ風呂屋へ行った。その前に名残とばかりたっぷり吸った。風呂屋で蒸気を浴びて、で、風呂屋から出たらタバコは一本もない。いや、実はあったんだ。見える所に一箱、開けたままで置いといた。でなきゃ、また探すことになるから。職場ではみんな吸ってた。みんなには、禁煙したことは黙っていたさ。でも、誘われてもいつも断った。だって、元の木阿弥になるから。そりゃ、吸いたかったよ。そんなときは吸いたいのを、ナッツやヒマワリの種をかじってぐっと我慢するか、仕事で紛らわしたもんだ。１か月もすると、気分が楽になった。咳もやんだし、ゼーゼーいわなくなった。痰も少なくなったしね。それでも一服つけたいって時がたまにあった。夢で何回も思い切り吸ったが、目が覚めて、ああ、夢でよかったって思ったもんさ。タバコの匂いが嫌だなって感じ始めたのは、やっと１年過ぎたころだ。この６年一服もせず、６７になった。うれしいよねえ、こらえ通したんだ。一服もやらなかったなんて、我ながら大したもんだよ。」
「ある朝、土曜だったわ、ひどい咳で目が覚めたの。それまで喫煙者特有の症状なんて、私にはまったくなかった。咳は、それはひどくて、息もできなくて、あえぐのがやっとという状態になったの。恐ろしくてたまらなかった。何日かして、タバコをやめたわ。吸いたくなくなったの。禁断症状は全然なかった。今は、状況はいろいろだけど、吸おうか吸わないでいようか考えることがあっても、いつもあの時のひどい咳が胸に迫ってきて、それで吸いたいっていう気がなくなるのよ。」
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